2009年8月 3日 (月)

守れない約束なんていらない。

先のエントリーで僕は一つの約束をした。

「何があっても最後の最後まであきらめない」ということを。

 

所詮、応援する側とされる側にはマリアナ海溝ほどの深い断絶がある。「チームはファミリー」なんて綺麗事だ。

「かあいそうだとはほれたということよ」。――夏目漱石「三四郎」より。 

 

ただ、応援される側が、それを「無償の愛」と勘違いして「当たり前の行為」と妄想してはならない。惚れたナントカの弱みでとりあえず全社北信越予選までは新潟くんだりまで行こうとは思っているが、それ以降、行こうと思うかどうかはクラブの意向による。威光が轟いているうちにスムーズに応援しがいのあるクラブへと移行してほしいもんである。

つまり、今の松本山雅は応援するに値しない、ということである。何だ、ここ2試合続けての無様な態は。

2年続けてリーグ4位。はっきり書くが、今すぐフロント・現場が雁首揃えて総辞任してもおかしくない有様である。試合終了後には各所からブーイングの雨嵐となった。当然だ。こんな内容じゃあ長野・金沢・JSCにも失礼だ。四強だなんて同じ括りで呼ばれたくもなかろうに。

 

愚痴は読まされるのは退屈だから、とりあえず止める。個人的には先の誓いに変更はない。ただ最後通牒として。

クラブも監督も約束したはずだ。JFL昇格を。責任ある大人なら約束は守れよ。守れない約束ほど無意味なものはないはずだ。守れない約束なんていらない。

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2009年7月25日 (土)

御無沙汰。

生きてます。

 

半年ぶりの更新、御無沙汰。奇跡的にも死んでません。松本山雅FC系ブログ(一応)、「"sapo" time blues」の2009年初更新でございます。

 

山雅系ブログもとんと増えてね。周りの顔見知りの皆様方も「ブログ始めたんすよ~」みたいな気軽なノリで嘯いていますが、そもそも諸君たちはブログを始めるという厳粛なる事実を前に何故そんな鼻歌交じりなのかと小一時間ほど詰問したい心持ち。前世紀、パソコン通信の時世よりネットに親しんできた自分としては(今年2月、10周年のメールがNiftyから来ました)、ほんの数回書き込んだだけで放置プレイと化しているブログを見るのが心苦しい! ブログするなら、小生のように10年は取り組む覚悟がないのなら、止めちまえ!

……ネタはこのくらいにして、話を進める。遂に明日、JSCとの血戦があるわけです。聖籠まで馳せ参じるにあたって、自分で自分に約束をしたい。

「最後の最後まで、何があって絶対にあきらめない」ことを。

辛島啓珠という人を僕はよく知っているが、まあ現監督は正反対の人物。現実主義者の癖に裏表のない性格。意外に口が軽く、思ったことは簡単に声に出してしまうために選手との衝突も多かった。クラブチームよりも(良くも悪くも)上下関係がはっきりしている学校での指導は向いているのかも知れないね。今年のJSCは特に強いよ。

でも、勝つしかない。引き分けの場合、「他会場の結果」に左右される。そーゆーのはもう結構。実力でもぎ取りましょうよ。僕は自分が出来ないことを他人に押し付けるのは嫌いなので、「死ぬ気で声出せ!」とか「飛べ、跳ねろ、手を叩け!」とか「景気をつけろ! 塩まいておくれ!」「ワッショイワッショイワッショイワッショイ!」とか言わない。ただ諦念、傍観はやめろ。何故なら俺達は(程度の違いはあるが)同志だからだ。ピッチ上でボールを蹴るか、それを応援するかの違いだけで、同じ道を歩んでいることに変わりはないんだ。

呑気者の独白、終了。さあ、行こうか。

 

というわけで、2009年スタート。暇なのか暇じゃないのかよくわからない怠惰な日々を相変わらず過ごしていますが、最近ちょっと気になる本やマンガを読んできたんで、またご紹介出来ればなと。ま、せいぜい道化を気取りますよ。

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2008年12月29日 (月)

サヨナラ2008年。

このブログの存在を忘れてた。

 

というわけで奇跡の2008年中の更新と相成った次第です。それにしても9月から更新を放棄しておいた間に世間様はじっくりコトコト熟成され、更に日本沈没、破滅への第一歩を踏み出した印象です。まあしょうがないよね。どうせ滅亡する運命にある国ですし、今さら足掻いたところで何も変わらないので、難しいことは考えないようにしています。

 

この数か月の間、鳥居みゆきが妙にゴールデンに馴染みつつあったり、一押しのオードリーがM-1準優勝したりと天変地異が巻き起こりつつある演芸界でしたが、オレ個人としても色々ありまして、まず偏愛する松本山雅はまたもJFL昇格を逃した。調子こいた南方の2クラブのサポーター(笑)の人達から何故かチョッカイだされてブチギレそうだったんですけど、ウザいので放っておいたら、2クラブともJFLに上がってしまったので(八百長? 賄賂?)、ウザさが頂点に達してます。ヤマトタケル以来の熊襲征伐と茶化すのもアホらしい佐治敬三の失言ですらほんの一面の真実をはらんでるんじゃないかとマジで考えてしまいましたもの。兎に角、こういうお茶目な人にデカイ面をさせたくないので来年は絶対にJFLに上がれ(命令)。

あ、韓流スター(なのに中華料理屋でバイトしていた)こと吉田ケンタロー選手もこのたびあえなく解雇と相果てました。ま、しょうがないね。以前書いたように実力の一端は見せてくれましたよ。しかし、チームを勝たせられなかった以上、アディオスも止むを得ないね。良い夢見ろよ!

 

矢畑選手、お疲れ様でした。僕は南方のどっかのクラブのサポーターのような人事に介入するという圧力団体は唾棄すべき存在だと思っているので、クラブに対して何か改めて物言うことはしません。しかし、貴方がこの地に残してくれた大きな大きなものを忘れることはないでしょう。いつか指導者として松本に戻ってきて下さい。

 

それじゃあ、また来年、かな。もう更新しなかったりしてね。少し早いですが、良いお年を。

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2008年9月18日 (木)

「女王の為の賛歌(ほめうた)」 (上)

 まだ、世界が混沌としていた時代の物語。
 そう、この世界が、北都・南都・東都・西都の四つの都に分裂し、血で血を洗う明日の見えぬ争いに明け暮れていた頃のお話。

 まずは女王を称えるための賛歌(ほめうた)からはじめよう。

  白き女王  吹雪と戯れ
  気高き女王  氷を弄び
  眩しき女王  獣を従え
  麗しき女王  孤高を護る

 そこは、人々から【絶対王朝】と称される地。北都よりもまだ北に広がる絶対零度の世界。
 吹雪の止まぬ常冬の大地は分厚い氷で覆われたまま、腹を空かせた獣は獲物を求めてうろうろと徘徊し、空は灰色の雲で覆われ太陽が顔を出す事も稀な極寒の地である。
 故にこの地には昔から人は住まず、居を構えるのは女王《スノーホワイト》只一人なのである。

 広大な領地を誇る【絶対王朝】のちょうど中心に位置する、巨大な建築物。まるで古代の聖堂を思わせる構造物。
 それはまさしく全てを氷で造られた大宮殿。一点の濁りなきも見られぬそれは、まさに【氷晶宮殿(アイスクリスタルパレス)】と呼ぶに相応しい。
 置物の鉄鎧が整然と並ぶ宮殿の大広間には、氷を削って造られた透明の玉座が鎮座している。そして、そこに座るのは、退屈そうな顔で肘を突く少女。
 一見して十代半ばにしか見えぬ少女だが、床に付きそうなほど裾の長い純白のローブを羽織り、金や鉱色石で彩られた首飾りや腕輪で着飾り、右手には頭蓋骨を象った装飾が為されている禍々しき杖を握っている。
 髪は艶やかな金髪を腰まで伸ばし、肌は白雪のように白く、瞳は透き通るほどに蒼く、唇は紅を塗ったかのように紅い。
 釣りあがった瞳や常に冷笑をたたえる口元など、どことなく勝ち気そうな雰囲気を漂わせる美少女である。
 美少女といっても、《スノーホワイト》がこの世に産まれて、既に百年余が過ぎている。しかし、それは人間の視点で見た話であり、外見も中身はあくまで十代半ばの少女だ。単純に時の流れが人よりも遥かに遅いだけの話だ。
 彼女が何者なのかは誰も知らない。人は《スノーホワイト》を伝承の中で「神の落胤」とも「悪魔の化身」とも呼んでいる。ただ、猛吹雪を爽やかな春風のように感じ、氷の上に寝そべってみても冷たさを如何ほども感じぬ存在。氷の統率者であり、制御者である点はどの伝承においても一致している。
 実は己が何者なのかは本人にも定かではない。気付いた時には、彼女は高貴なる者のみが着衣を許されるローブに身を包み、氷の玉座の上にいたのである。その時、既に《スノーホワイト》は分別がつく状態であった。氷の宮殿において凍てつかぬ自分を「人外の存在」――人はそれを"異形"と呼ぶ――であるという感覚を既に備えていたのだから。
 そして、この地を――【絶対王朝】を――一歩でも踏み出ると、自分は溶けて消えてしまうという事も知っていた。だから、彼女は宮殿の玉座に今日も一人で座っていたのである。彼女の横には誰もいない。ただ、気が遠くなるほどの時だけが傍らに居たのだった。

 さて、女王《スノーホワイト》は、退屈だった。
 何しろ、この地から離れる事が出来ぬため、宮殿において他の国の様子を覗き見る事の出来る水晶玉を眺めて暇を潰すか、行けども行けども氷ばかりの領地を散歩するくらいのものだった。
 そこで、退屈を癒すため、今日もまたちょっとしたまじないを執り行う。
 《スノーホワイト》がおもむろに玉座から立ち上がり、右手の杖を虚空で振った。
 大広間に粉雪のような光が舞い降りる。汚れなき光が瞬きながら、氷柱を垂らした鉄鎧に降り注ぐ。
 すると、大広間脇で微動だにせずに立ち尽くすのみであった鉄鎧の置物が小刻みに震えたかと思うと、一斉に手を挙げはじめた。
「愚直なる我が衛兵ども、集合じゃ!」
 凍てついた空気を切り裂く高音の声。鉄鎧たちは驚き、顔を見つめあいながら何やらひそひそと話し合っていたが、一斉に頷いてがちゃがちゃと騒々しい音を立てながら彼女の元へと駆け走った。
 がちゃん! その一団の中でも一際鈍重そうな一人が勢いよく転んで騒々しい音を立てた。
 その遅れた一人が最後尾で膝をついて臣下の礼をとった。
 鉄鎧は総勢十名。《スノーホワイト》の恐るべき能力によって自らの意思を与えられた鉄鎧。女王の為ならば喜んでこの身を捧げる、勇敢で誇り高き衛兵ばかりである。
 で、あるのだが。
 その女王は、まだ怖いもの知らずの少女なのである。
「皆の者、よく聞くがよい」
 《スノーホワイト》が腕組みをしながら厳かな口調で目の前で平伏する鉄鎧らに語りかけた。
「――わらわは、退屈じゃ」
 え? 突然の言葉に全員が首を傾げる。
「そこで勇敢なる我が衛兵に勅令を下そう。何かわらわが気に入りそうな面白い物を外から持って参れ!」
 勅令などとは如何にも大袈裟だが、何と無慈悲な命令か。
何しろ宮殿の外にあるのは分厚い氷ばかりである。
 案の定、困り果てた一人の鉄鎧がおずおずと挙手した。
「女王陛下、よろしいでしょうか……?」
「何じゃ?」
「面白い物とは、具体的にはどのようなものでございましょうか?」
「わらわが見た事の無いようなものならば何でもよい。……そうじゃな。例えば二つ尾を持つ白豹とか、足を生やした魚とかな」
 《スノーホワイト》の言葉に鉄鎧全員が再び慌てふためいて、何やら相談を始める。
「ええい、何をしておる! 相談は宮殿の外でやれ! 早く行かぬか!」
 痺れを切らした我侭女王の怒声が宮殿をびりびりと震わせ、全員が飛び上がって我先に扉へと向かう。
「全員駆け足じゃ!」
 さらに追い討ち。鉄鎧はつるつると滑りながら、宮殿外へと飛び出して行った。
 大広間に再び沈黙が訪れる。
 しかし、その沈黙は数秒も持たなかった。
『おいおい、何て人使いの荒い女王様だ?』
 突然、どこからか男の声が聞こえた。まるで二人が同時に喋っているかのように聞こえる。
 頭の中に直接響く声に《スノーホワイト》は動きを止め、溜息を吐く。
「……何の用だ。《バンシー》よ」
『へへへ……いや何、ちょっと女王陛下のご機嫌伺いにね』
 玉座の影から、まるで蒸気が立ったようにゆらりと黒い影が湧きあがる。まるで朧げであったそれは、渦を巻きながら少しずつ人の形を成していく。
 人はそれを、嘆きの妖精――《バンシー》と呼ぶ。
 【絶対王朝】の女王《スノーホワイト》同様、嘆きの妖精《バンシー》も人々に"異形"などと呼ばれ、伝承として語り継がれている存在である。
 ただ、やはり地方によってその扱いは異なる。黒髪をなびかせる美しい妙齢の女性であったり、黒づくめの衣装に身を包んだ老婆であったり、人か悪魔かも判別できぬ影のような姿であったり。
 ただ、《バンシー》の泣き声が聞こえた夜。それはたくさんの人が死ぬ予兆である――という点のみは一致しているのである。
「ご機嫌伺い? 残念だが、わらわはそなたの声を聞いただけで気分を害すのだがな」
 《スノーホワイト》は顔色も変えず、精一杯の皮肉を投げつける。しかし《バンシー》は、女王の皮肉にも怯まずに低い声で哂う。
『ほっほっほ。それは失礼致しました。てっきり私めをお待ちだと思っておりましたもので』
「! ……だ、誰がそなたなぞを!」
『そのようにむきになられますと、私もどうしてよいものやら困ってしまいますなあ。ふふふ……』
「く、くうっ……!」
 《スノーホワイト》は、《バンシー》に心の内を見透かされている事に気付き、頬を赤らめ口を噤む。
 《バンシー》と《スノーホワイト》との縁は、遥か昔からのものであった。
 人の世の移り変わりを、水晶玉を通してしか見た事の無い《スノーホワイト》にとって、自分よりも遥かに長い時を経てきた《バンシー》の減らず口から語られる物語は一流の講談師も顔負けで、傾聴に値したのだ。
 例えば、王の位にまで上り詰めた偉大なる詐欺師の話や、世界でも最も弱い騎士が遺した偉大なる武勇譚(サーガ)。嘘つき詩人の謡った流行歌などなど。そのどれもが心躍る冒険譚。まだ見ぬ、そして永遠に知る事が出来ぬであろう未知の世界。
 氷で出来た駕籠の中にいる《スノーホワイト》にとって、《バンシー》はずっと物知りで、愉快な者であった。誇り高き氷の女王として、それを認めるのは屈辱であったのだが。
「そなたも随分と暇そうだな。世の戦はまだまだ続いておるというのにな」
 《スノーホワイト》がじろりと横目で睨みつける。《バンシー》が泣く夜はたくさんの人が死ぬ。
『ふぉふぉふぉ……戦乱はまだまだ続きますから、私めも毎晩のように嘆かねばなりますまい』
 影がふわりと横を向いた。
 突然、玉座の傍らに置かれている水晶玉が鈍い光を放つ。
 そこに写し出される風景は、とある地方の農村。
 本来であれば今頃は収穫期。今年は好天に恵まれたから、畑には大粒の麦が実り、果物も甘くなったであろう。農民からは笑顔がこぼれ、収穫祭の準備におおわらわであったろう。
 しかし、村は既に廃墟。
 簒奪者から略奪され尽くした家々は無残に破壊され、辺りに累々と横たわる死体。人の気配は皆無で、空をぐるぐると舞うのは死の匂いを嗅ぎつけた烏だろうか。
 血に染まる畦道の突き当たりに広がる踏み荒らされた麦畑の真ん中に立つ悪趣味な案山子。
しかしそれは、裸に剥かれて慰み者にされた後、命を奪われたうら若い女性の死体。
「――!」
 《スノーホワイト》は余りの惨劇を直視出来ずに目を逸らす。
『よく見るんだ! 《スノーホワイト》!』
 《バンシー》の怒りと悲しみとで上ずった声。
『人間は我等を"異形"などと呼ぶ。しかし、自分たちのやっている事は何だ? 無益な戦乱で血を流し、略奪に明け暮れ。奴等のやっている事の方がよほど異形ではないかな』
「――そんな事、私に言われても……」
 氷の女王の頬を涙が伝い、それは床に落ちる途中で氷結し、床の上でかんかつんと音を立てて飛び散る。
 その姿は、気高き氷の女王でも、恐るべき“異形”でもない。
 地獄を思わせる光景に心傷める様は、まさしく幼い少女のものであった。
『――いや、これは失礼した。何も陛下を泣かせようと思ったわけじゃない。つい気が高ぶってしまっただけだ』
 しかし、と《バンシー》は頭を振る。
『この戦乱は、……まだまだ続く』
 人ならざる二人は、声を失う。吹雪が吹き荒ぶ音が、今日はやけに残酷に響く。
 宮殿の空気が凍りついたその時だった。
「陛下! 陛下!」
 二人の背中から投げられる乾いた叫び声。
 その声の主である鉄鎧の一人が大広間に駆け込み、――すってん、と転んだ。
「どうしたのじゃ、騒々しい!」
「ははっ! 実は……」
 鉄鎧が冑の面貌の辺りを痛そうに撫でながら、
「陛下のご命令である面白い物を発見したのでございますっ!」
「面白いもの?……あ、ああ。そう言えばそんな命令もしたかな」
「へ、陛下!?」
「案ずるな、ほんの冗談じゃ。……で、その面白いものとは何か? 金鱗の人魚か、或いは不死鳥の羽根か?」
「い、いえ、その、こちらでございます」
 次いで鉄鎧が数人がかりで抱えて来たもの。それは――。
 毛皮の防寒具に身を包んだ銀髪の少年であった。
「何じゃーー!?」 (続く)

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 2003年半ばに執筆、自分のwebサイトに上げたものを、5年の年月を経て、再び陽の目を見せたい。

 とりあえず、中編に続く。

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2008年9月17日 (水)

「女王の為の賛歌(ほめうた)」 (中)

 少年は夢を見ていた。
 風景が大きく歪み、灰色に塗り潰された世界。そこに一人ぽつんと立ち尽くす銀髪の幼児。
(――ああ、これはまだ子供だった頃の俺だ)
 顔に切り傷擦り傷を山ほどこしらえた涙を堪える風の幼児。幾つはまだかさぶたになりかけの痛々しい傷。
(――間違いない。あれは俺だ。強かった父さんに憧れて、自分も剣士を目指していたんだ)
 幼児の周辺に幾人かの人の姿が現れた。姿かたちは老若男女それぞれ異なっているが、皆、顔がのっぺらぼうになっていて表情が見て取れない。

 ――あれが、英雄メーリングのご子息か。
 ――何か、似ても似つかぬ子だのう……。
 ――まるで女の子のようじゃ。あれでかの剛剣が振るえるものか。
 ――さては血は繋がっておらぬのではないか。
 ――有り得ぬ話ではないな。メーリング殿は出陣に明け暮れ、家庭を省みぬというしな……。

 彼等のひそひそ話が烈しく胸の奥底を抉る。
「うるさい!」
 幼児が涙を這わせながら怒鳴った。固く握り締めた拳が小刻みに震える。
「ち、父上と母上を馬鹿にするなっ! 僕は……僕は……英雄メーリング将軍の息子だ!」
 途端、辺りに嘲笑が響いた。それが如何なる理由のためか理解するには幼児は余りにも幼い。ただ、それが侮蔑の証である事は肌で感じた。
「わ、笑うな! 笑うなっ!」
 しかし、嘲笑は止まない。
 世界が、暗転していく。曙光は見えない。
 そして、終幕。

「――う……うん……」
『お目覚めかい?』
 耳元、というか頭の中に響く、野太い男の声。
 意識を取り戻した少年が目を開け、視力を次第に取り戻す。ぼやけていた視界の焦点が定まっていくに従い、自分の置かれている状況を理解しだす。
(生きている!?)
 少年は勢いよく跳ね起きた。身体に掛けられていた幾枚もの毛皮の毛布がずり落ちる。
「……って、どこだ、ここは?」
 四方を氷で囲まれた部屋。身体を毛皮の毛布に包まれ、頭元に置いてある金色の火鉢からは柔らかな熱が放たれている。
 室内をきょろきょろと見回すと、足元の少し先では、鉄鎧を付けた二人が氷で出来た盤と駒でチェスに興じているではないか。
「……何だ、あれは?」
 その疑問を思わず声に出して言ってしまった。鉄鎧が少年の方を振り返った。
「あっ、起きた起きた!」
「良かった! 心臓止まりかけていたのにね」
 鉄鎧がまだ蒼ざめている少年の顔を無遠慮に覗き込んだ。
「ひいっ!」
 少年は近寄る鉄鎧から飛び離れた。
「な、中味がない!」
 確かに鉄鎧には中味が無い。面貌の向こうにあるべきはずの顔は全くの空洞なのだから。
『おいおい、命の恩人に対して化け物扱いは酷いんじゃないか?』
 虚を突かれた少年に、先程の野太い声の追い討ち。
 見ると、人の形を成した黒い影が、こちらへたゆたいながら近寄ってきたではないか。
「いやー、実際化け物なんですけどね」
 中味のない冑が上下に揺れ動く。どうやら笑っているらしい。笑い声も実際に聞こえるが、鎧がぶつかり合う音の方が騒々しい。
『しかし僕、本当に運が良かったぞ』
 傍らの黒い霧がゆらゆらと揺れ動く。少年は野太い声がこの影のものであることをようやく悟った。
「いや、でも本当に奇跡だよね」
「でも女王陛下が『わらわが人工呼吸を!』なんて言い出した時にはびっくりしたよね! 溺れたわけじゃないんだし、陛下の息なんて吹きかけられたら凍死しちゃうよ」
 少年は理解した。
「――そうか、俺死んじゃったんだ」
 人の言葉を話す影と中味のない鉄鎧に囲まれては、そう思うのも無理もないのかも知れない。
 その時、小部屋の扉が厳かに開かれた。
「――目覚めたようじゃな」
 それはこの場に相応しくない、聖なる鐘の如き透き通った声色。
 少年は目を見開いた。目の前に現れた少女の美しさに。
 切れ長の瞳、真っ赤で艶やかな唇、白い肌。
 その刹那、少年が跳躍した。
 まるで豹の如き軽やかな足取りであっという間に少女の元まで近寄ると、その細い腰をぐいと掴み、身体を引き寄せた。
「な……!」
『ええっ……!』
「嘘……」
 先程まで凍死寸前だった少年のとった予期せぬ行動に、少女も影も鉄鎧も呆気にとられ言葉を失った。特に少年に腰を手繰り寄せられた少女は初めての体験故の恥ずかしさが混じり、完全に固まってしまった。
「――大丈夫。もう心配はいらない。君は僕が護ってみせる!」
 少年が、その少女に優しく問いかける。数秒置いて、ようやく少女が我に帰った。
「な、何じゃと?」
「この醜き"異形"どもに囚われていた憐れな少女よ。もう恐れる必要は無いよ! 偉大なる剣士メーリングの息子であるこの僕が、君をこの牢獄から助け出して……」
「いい加減にせいっ! いつまで触っておる!」
 怒りで顔を強張らせた少女が、何か大きな勘違いをしている様子の少年の頬を思い切り張った。
 ばしっ!
 憐れな少年は顔の形が変わるほどの衝撃を受け、部屋の片隅まで弾き飛んでいった。

「大丈夫か? 少年よ」
 鉄鎧が少年の膨れ上がった頬に氷枕を当てた。
「――はあ。どうもすみません」
「気にする事は無い。我等の姿を見れば誰でも驚く事は間違いないのだから」
「…………」
 少年はぺこりと頭を下げ、押し黙る。彼の頭の中では、つい先程までの記憶が反芻されていた。

「こ、この《スノーホワイト》に対して、このような破廉恥な真似を……!」
 《スノーホワイト》は怒りと恥ずかしさで顔を赤く染め、今にも溶け出しそうなほど熱くなっている。
「す、《スノーホワイト》!?」
 部屋の隅まで弾き飛ばされ、上と下とが逆になっている少年が居住まいを正した。
 少年も、無論《スノーホワイト》の伝説は知っている。
「そう、わらわが《スノーホワイト》。【絶対王朝】を治める女王にして、氷の統率者、制御者」
 ようやく落ち着きを取り戻した《スノーホワイト》が胸を反りながら、厳かに語る。
「そなたが我が領地にて行き倒れておったところを、我が衛兵らが見つけ、救出したのじゃ。礼を述べるがよい」
 少年は御伽噺で語られていた《スノーホワイト》を目の前にして、驚きの余り声を失っていたが、突然大声で笑い出した。
「ど、どうしたのじゃ?」
「そうか、そなたがかの《スノーホワイト》か! ちょうど良い。私が初めて剣を交えるには相応しい相手だ!」
「…………」
「人の世界で我が物顔を浮かべる"異形"の者よ。さあ、どこからでもかかってこい! 私が見事討伐してくれん……」
 そこまで言ったところで、目に見えぬ速さで近寄った《スノーホワイト》に、もう片方の頬を張り飛ばされ、少年の身体が今度は小部屋の壁まで吹き飛び、頭をしたたかに打ち付ける。
「――ふふ、さすが《スノーホワイト》よ。さあ、我が首級を挙げるがいい……」
 そこまで言うと、少年はまた気を失った。
 その涙を誘うほど滑稽な道化ぶりに、その場に居合わせた全員が頭を抱えたのだった。 (続く)

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 (中)編を上げる。この当時の僕は、本当にファンタジィが好きだった。

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2008年9月16日 (火)

「女王の為の賛歌(ほめうた)」 (下)

「しかしまあ、女王陛下に喧嘩を売った勇敢な剣士はそなたが初めてだ。実に面白い物を見させてもらったよ」
 何か言い返す気力も無い少年は両頬に氷袋を当てたまま、鷹揚に笑う鉄鎧を見やった。
「初めて……ですか?」
「ああ、初めてだな。何しろ陛下は御料地から外へ一歩たりとも出られた事がないのだ。人と逢われるのも初めてのはずだ」
 少年は頭に擡げる疑問に、首を捻った。
「でも、《スノーホワイト》の伝説は数百年前から語り継がれていると耳にした事が……。あの娘、いやいや《スノーホワイト》はどう見ても、僕と同い年くらいしかに見えませんが」
「ふふっ、女王陛下は、あれでも百余歳なのだがな」
「ええっ……!」
「人よりも幾分か長命で、時の流れが幾分か緩やかなだけだ……ただ、《スノーホワイト》は次の世代へと襲名されていくもの。今の女王陛下の前にも《スノーホワイト》はいたのだ」
「先代の《スノーホワイト》……。という事は、今の《スノーホワイト》のお母上という事?」
「君等の考え方ではそうなるだろうな。間違ってはいないが、もともと君等が"異形"と呼んでいるものは私も含めて概念的な存在であるから、人や獣のように明確な血の繋がりがあるわけではない」
「はあ……」
 判ったような、判らないような。
 少年の曖昧な表情を、鉄鎧は見抜いていた。
「人には理解出来ぬ世界だ。無理に判ろうとせんでいい」

 少年と鉄鎧の会話は、玉座の水晶玉で全てお見通しである。
「……あのお喋りな鉄鎧め、余計な事までぺらぺらと……!」
『ふふふ、何か妙に苛ついておるな。さては陛下、かの鉄鎧が羨ましいと見える』
 《バンシー》がくぐもった声で言う。
「なっ、何を……!」
『先程も、かの少年に抱きかかえられた時に一瞬うっとりとした表情を見せていたように思ったが、私めの錯覚でしょうかな?』
「う、うるさい!」
『おやおや、ほんの冗談でしたのに、そんなにむきになられるとは』
 もはや何を言ってもからかわれるだけだとようやく気付いた《スノーホワイト》は押し黙り、玉座の横に置かれている剣に視線を移した。
 伏していた少年の傍らにあった剣。少年の持ち物である事は間違いないのだが。
(このような剛剣を、あのような華奢な少年が扱えるものか……)
 身長も決して高くはない痩せっぽちの少年であった。このような剣よりも厨房で包丁でも握っていた方が似合いそうな優男である。
 しかし、この剣は――。
 《スノーホワイト》はそれを片手でひょいと担ぎ上げた。
 普通の長剣よりも5インチは長いだろうか。刀身も幅広で、重さに至っては通常の長剣の倍はある。
 長い柄を固く握りしめ、鞘から剣を一息に引き抜くと、鈍い光を放つ刃が現れる。刃こぼれ一つ見られぬ刃先は、名剣の証であろう。どれほどの名匠とて、生涯に一本造られるか、造られないか。
「これは……」
 美しい、と《スノーホワイト》は素直に思う。
 貴族が戯れのために扱うドレスソードのように鉱色石や黄金で装飾されているわけでもなく、形状も実に無骨な長剣。
 しかし、刃こぼれの生じていない刃先は無意味な装飾を軽く凌駕する美しさを放っている。まるで白磁を思わせる細やかな剣先。
『これは、斬る剣ではないな。叩き潰す剣だ……』
 《バンシー》の呟きに、《スノーホワイト》も同意の頷き。
 戦場において、鉄の甲冑に身を固めた相手を斬るのは難しい。ましてやドレスソードなどでは衝撃に耐え切れずに折れてしまうのが関の山。
 しかし、この剣は違う。圧倒的な重さと固さで鎧ごと叩き潰す事が出来よう。故にこれを扱うには、それ相応の腕力と剣技が必要となる。
『――あの少年、英雄メーリングの息子、とか言っていたな』
「ああ」
『英雄メーリングというのは……』
「恐らく、《東都の猛獣》メーリング・ハインリヒ……」
 《スノーホワイト》も、メーリング・ハインリヒの名は知っていた。東都の領主、ノイマン卿の配下の将軍である。
 幼き頃から戦場を駆け抜け、百を超える戦争に参軍しているメーリングの戦歴は華々しいなどという表現を超え、もはや伝説である。
 人の倍はあろうかという巨躯を誇る、強力の剣士。顔に引っ掻き傷のような禍々しい刺青を施し、剣を一太刀振るえば十を超える首が宙に飛んだという伝説が残されている。その苛烈な戦ぶりに近隣諸国から《東都の猛獣》と渾名され、彼が参戦したというデマが流れただけで敵軍は恐れの余り戦意喪失し、遂には我先にと敗走したという。
 しかし天はニ物を与えぬもので、こと大局の戦略や大軍の指揮統率能力においては剣技ほどの優れた才は持ち合わせていなかった。
 故に敵軍軍師らの計略に落ち、度々敗地に塗れ、遂には北都の領主ロッソの軍の前に首級を挙げられる事となった。これが三年前の話。
 英雄を失った東都の軍勢の士気喪失は著しく、諸国の侵攻を防ぐ事も適わず、遂に北都に併合されたのが昨年の話。
 メーリングの首は東都の城の守閣に晒され、一族は殆ど囚われ、ロッソの手により処刑された。
 数年という時は、《スノーホワイト》や《バンシー》にとっては、一回の瞬きほどの時間でしかない。しかし、あの少年にとっては……。
「何と長い長い時であったことだろうな……」
 彼女は、少年が過ごしてきたであろう数年間に思いを馳せる。
 英雄の子息としての何不自由ない生活からの暗転。その苦労は手に取るように容易に想像できる。
『しかし思い出して見るがいい。貴方に飛び掛った時の事を』
 《バンシー》に言われるまでも無い。《スノーホワイト》も思い出し、身震いする。
 獣を思わせる、あの軽やかな身のこなし。速さ。
 彼女自身も予期していなかったとはいえ、予想外の速さに全く対応が出来なかった。
(もし、少年がわらわの命を狙うつもりであったならば――)
 最悪の事態を予測し、《スノーホワイト》は百余年生きて、初めて未知の感覚を覚えた。それは、畏怖。
『英雄の血を引く少年。華奢な優男と侮る事は出来ぬぞ』
「うむ……」
 目を細めた《スノーホワイト》の前に、話の主役たる少年が現れたのは、そんな時であった。
「あ、あのっ!」
「おお、勇敢なる剣士殿。目が醒めたか?」
 《スノーホワイト》が意地悪な瞳で睨む。少年は冷静さを取り戻している。自らの愚かな振る舞いに深く恥じ入った様子で、氷の床に手を付き、素直に平伏する。
「――命の恩人に対しての無礼な振る舞い、万死に値するところです」
 ふっ、と《スノーホワイト》は笑った。
「もう別によい。顔を上げい」
 《スノーホワイト》はいともあっさりと彼を赦した。彼女から怒りの感情はとうに消えている。
「その代わり、一つわらわの質問に答えてくれぬか?」 
 《スノーホワイト》が剣を鞘に収める。
「何故、そなたはこのような場所で行き倒れておったのか?」
 そもそも【絶対王朝】に立ち入る物好きな輩に《スノーホワイト》はお目にかかったことがない。止まぬ吹雪と餓えた獣。命の危険だらけのこの地にやってくるなど命知らずもいいところである。
 少年は、彼女の問いになかなか口を開こうとしなかった。
「どうした?」
「う、それは……」
「《東都の猛獣》のご子息さまが、何故このような僻地を彷徨っておられたのか?」
「……知っておられるわけですね、父上の事を」
「先程からお主が偉そうに口上しておったではないか」
「……今よりもずっと幼かった頃、下らない事が原因でいじめっ子たちと喧嘩になった事がありました。身体の小さな僕はこっぴどく打ち据えられたのですが、悔し紛れにメーリングの息子であると名乗ったのです」
「…………」
「彼等はそれを聞くと突然怯え出して、遂には逃げ出してしまいました。僕はその時気付いたのです。東都において、父の存在がどれだけ絶対的なものであるかを」
 少年は観念したように顔を上げた。
「その時から、何か困った事があった時、僕は父の名を名乗り続けました。さすれば、大概の事はうやむやになったのです」
「しかし、その父上は戦死された――」
「北都の領主ロッソは恐ろしく残忍で狡猾な男です。彼の薄汚い策略の前に敗れたのでしょう」
「はははっ!」
 《スノーホワイト》は可笑しくてたまらないといった風に笑い出した。
「薄汚いだと? 戦に卑怯も何もあるものか!」
 その言葉に少年は消沈し、唇を噛み締めている。
 この人一倍素直で利発な少年には恐らく全て判っているはずだ。
戦がどれだけ醜いものか。そして誇るべき東都の英雄の父はその戦での英雄であった事も。《東都の猛獣》の名誉が無数の屍の上に成り立っていた事も。しかし、それを認めてしまう事は――。
 少年の気持ちが痛いほど伝わってくる。《スノーホワイト》もまた、気が沈んでしまう。
「――おお、そうじゃ!」
 わざとらしく《スノーホワイト》が手を叩いた。
「ちょうどよい。そなたの故郷が今どのような事になっておるのか見てみるか? 後学のためにもよかろう」
「えっ?」
 水晶玉に光が点った。

 東都最大の大通りでの凱旋の宴。この度の戦も大勝利に終わったらしく、歓迎の熱が渦を巻く。
 道の脇には溢れんばかりの熱狂的な民衆。酒臭く淀んだ空気が皆の身体を包み、それだけで酔ってしまいそうだ。
 宙に舞うのは色鮮やかな紙吹雪。楽団・楽師らが奏でる行進曲のうっとりするほど官能的な響き。
 宴の主人公は、汚れ一つない完璧なまでの賞賛の声を一身に浴びる。横に屈強な警護兵と妖艶な美女を何人も這わせている。
 禿げ上がった頭に髭を生やした巨躯の男。
 北都の領主、ロッサ。
 薄気味悪い笑顔の仮面を貼り付け、手を振り返す。その様に、世界はますます熱狂し、さらに歪んでいく。
 沸点を超えるほど熱を帯びた夢。それは、そう、悪夢。
 皆、狂っていた。熱狂の渦の中で、皆が醒める事の無い酔いに浸っていたのだ。
 皆、叫ぶ。狂ったように。獣のように。
 ――エレ、ジェミニ!
 ――エレ、ジェミニ!
 狂った祭りは続く。永遠に続く。世界はどこまでも歪んでいた。
 灰色の空。それはひどく下品で野蛮な空だった。

「もう結構です!」
 少年が握り拳で氷の床を打ち据えた。
「言うに事欠いて、聖人(ジェミニ)だと? 聖者にでもなったつもりか!」
 少年の瞳から、悔し涙がこぼれる。
「恐らくそなたは、東都が陥落した後、北都の軍の目を掻い潜って、逃亡したのだな?」
「――父は北都の軍に大きな損害を与えました。ロッソの父への怒りは尋常ではなく、一族郎党は皆殺しにされる事は間違いなかった」
「しかし、他の都へ逃げようにも大きな街道は皆、北都の軍が封鎖している」
「――その通りです」
「で、進退窮まったそなたは、わらわの領地を経由しての逃走を試みたのじゃな?」
 少年は押し黙った。それは正解を意味している。
「――私は卑怯者です」
 少年が今にも消えてなくなりそうなほどに萎縮する。
 《スノーホワイト》も、《バンシー》も、幾人かの鉄鎧も、少年を凝視するだけであった。
「父の敵を討つどころか、命汚く追走からおろおろと逃げ惑うばかり――。この体たらくでは、よその都に逃げ込んだところで、私になど誰一人力を貸してくれないでしょう」
 不意に《スノーホワイト》が玉座から立ち上がり、少年の元に歩み寄る。
「憎き敵を討つなど、夢のまた夢……」
 "異形"の女王が、無力な少年の肩に手を置いた。服の上からひんやりとした感触が少年の身体に伝播していく。
 震える少年の肩に手を置いた《スノーホワイト》に伝播したのは、少年の心の傷。
 それは孤独、絶望と言い表す事が出来る。
 そしてそれらは、己の心に触れ合い、混じる。

 粉雪のベッドに伏せた時、これは長い夢であればいいのにと幾度も思った。しかし目覚めた時、相変わらず私は、人々から畏怖される“異形”。《スノーホワイト》。
 何度、己を恨んだ事だろう。幾度、自分に流れる絶対零度の脈動を絶ちたいと願ったことだろう。

「――少年よ、顔を上げよ」
 《スノーホワイト》の厳かな口調に、少年は溜まらず顔を上げた。
 少年は気付く。誇り高き氷の女王の吐息に。鼻先をくすぐるそれが徐々に近づく。
 そして――。
 少年の唇と、《スノーホワイト》の唇が触れた。
 その場にいた全ての者が、同じ感覚を共有していた。
 時の流れが停止し、何の音もしない。身体が麻痺し動かない。
 ほんの数秒に過ぎないそれは、まさしく永遠に感じた。
 唇が離れた時、少年はようやく正気に帰る。
「――少年よ、いや剣士よ」
 福音にすら聞こえる、聖なる響き。
「――そなたは既に誰にも負けぬ誇り高き剣士なのだ」
 少年の身体の震えが止まり、涙が止まる。
「――そなたに足りぬものは勇気」
 少年の顔が紅潮し、赤々とした生気が宿る。
「――命を軽んずるのは勇気ではない。それは蛮勇に過ぎぬ」
 心が躍りだし、今にも外へ弾け出そうとしていた。
「――強かった父を乗り越えようとする勇気であり、剛き者に弓引く事の出来る勇気」
 少年の顔は自信と誇りで満ち溢れている。泣き虫な少年の面影は無い。もう、言葉はいらない。全身を疾走する衝撃に眩暈すら覚える。
「――ここで出逢ったのも、何かの縁であろう。わらわがほんの少しだけそなたに勇気を分けてやった」
 《スノーホワイト》が、剛剣を少年に返す。
「――わらわの加護ある限り、そなたが敗れることはない」
 少年が口を固く閉じ、力強く頷く。
 《スノーホワイト》が微笑んだ。
「――闘え」

 ※

 それから数百年の時を経ただろうか。
 《スノーホワイト》はまだ生きていた。目元口元に多少皺は増えたが、妖艶さは増した。崇高で荘厳な表情。もはや、あの意地っ張りな少女ではない。
 玉座の横に置かれた青白く光る水晶玉に映る帝都の映像。
 栄華を誇った《千年帝国》の帝都は、もはや見る影も無い。
 あの泣き虫の少年――アーダルベルト・ハインリヒという名の――が打ち立てた《千年帝国》も解体の時が来た。
「――始まりがあれば、終わりもあるのだ」
 《スノーホワイト》が独り言を呟いた。
 そして、あの日の接吻を思い浮かべ、目を閉じた。

 あれ以来、《スノーホワイト》は恋に落ちていない。

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 原稿用紙にして42枚。「<<千年帝国>>の破局」という世界設定のもとで、暇にあかせて、幾つかの短編と多くの掌編を書いた。その中でも、実はお気に入りの一作である。

 内容は、いわゆる二次創作に近い。ありきたりの世界観、設定。オリジナリティは皆無である。「偉大なるマンネリ」に支配された剣と魔法の世界を舞台にし、一連の物語を「帝都騒乱記」と仮題した。気恥ずかしいのであるが、後出しジャンケンはしたくないし、あえて手直しはしていない。内容の稚拙さ、世界観の甘さについては突っ込んでくれて構わない。これもまた、「青春の甘酸っぱい思い出」である。

 ――やっぱりファンタジィは素晴らしい。いや、ファンタジィの定義は難しいけれど。

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2008年9月 3日 (水)

ミドリのコラソン。

20080903054632

さあ行こう。僕らの街のクラブと共に。そして、その先を見に。

松本山雅FC、リーグ最終戦。全社がある。僕らの旅は続く。でも、その前に。

 

優勝のかかった試合。KY上等。こーなったらトコトンヒール気取っていきましょう。

……チケットは先に買えよな。当日券はないぞ。

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2008年7月15日 (火)

本当だ♪

まずは先のエントリーの修正ね。

5点中、4点が頭

5点中、3点が頭の間違いですた。お詫びして射精修正致します。なお、その他の部分に間違いはございません。

 

というわけで、「自分が先に手と口を出した癖に、ウザい事からは知らぬ存ぜぬで逃げまくる」というダメ人間の王道を往く行為をいけしゃあしゃあとしでかしたところで、話をコペルニクス的急転回したいと思います。本当なら山雅系ブログの一つとして、「迷将よっすぃ~の解決!ビフォーアフター」的なエントリーの一つや二つを書き散らして、「何と言うことでしょう!」と吐き捨てたいところなのですが、根本的に怠惰でありまして、やる気というものを20年前に捨てたヒトとしては、そういう元気が起きていたら、今頃年収100億円くらいにはなっている。

 

あ、巷で評判の、「当たると評判の芥川・直木賞予想」を書き忘れてしまった! せっかく今回は両賞ともビンゴの大正解だったのにぃ~……。また、半年後にお会いしましょう!(生きてれば)

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2008年7月13日 (日)

賢太郎!ダダダダン 賢太郎!ダダダダン

お久しぶりの更新でおま。生きてるよ。以上。

 

一応、このブログは松本山雅FC系なので(ええっ、そうなの!?)、本日の試合の話をちょこっとだけして、お茶を濁しつつ、生存確認を終了したいと思います。

相手はフェルヴォローザ石川さん。監督とコーチがスタメンに入るという非常警報発令中のチームでございますが、ピンポイントで好選手がいたのは確か。あのリトルサイズのGKは元町田。何故か賀谷がベンチ。怪我でもしてるのか。今日のメンツなら、ふつーに主力だと思うのだが。

6-0での勝利。正直、もうちっと取れたよね、というのは無いものねだり。柿本の「利き足は頭」説は学会で証明された格好。5点中、4点が頭。

あと、なんといっても、吉田賢太郎。もうね、素晴らしい。動きが。裏を取ろうとする動き、相手DFを引き寄せて柿本を自由にする動き、身体を張って味方にパスを送る動き。

サッカーとは動くスポーツ。動かないフィールドプレイヤーにはポジションは与えられません。その意味では、賢太郎は山雅の中では稀有なるフットボーラーなのだと思います。

しかし、えてしてそういう選手は評価されません。2ちゃんあたりじゃ自称サッカー評論家に酷評されてる彼氏ですが、何故ボロクソに言われるのか、山雅観戦歴8年目の若輩のボクちんには不思議で仕方ありません。ホントに試合見てるの? サッカー知らないのかなあ。ただ単に「賢太郎のバカちん!」って憂さ晴らしで言いたいだけちゃうんかと心の中でボソッと呟きたい心境。あ、もちろん声に出しては言いませんよ。自称サッカー評論家のしぇんしぇいを敬ってますから(笑)。

 

某誌のインタビューで将来の目標を「松本に定住すること」と答えた男気満点の彼氏だけに、とりあえず頑張ってほしい。「韓流スター」と讃えられたその笑顔で(多分褒め言葉)、ギャルサポとマダムのハートを射抜いておくれ。

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2008年5月24日 (土)

それでも俺達は勝つんだ!

ツエーゲン金沢戦を明日に控えて、少々気分は落ち着かないわけですが。

 

松本山雅の今季は、まさにジェットコースターに似ている。今はとりあえず連勝して急上昇中だが、勝負事ゆえに、いつまた「ええじゃないか」の如く真っ逆さまに急降下していくかはわからない。今季の金沢は攻守ともに安定と、3年かけて築き上げたそのゆるキャラ路線を否定することに躍起になっている。まるで過去の声優としてのアニメ出演をなかったことにして誤魔化そうとしている仲間由紀恵ぢゃないか! 

 

この一週間、ずっとトマトジュースを飲み続けてきた。「赤を飲み干す」願掛けのジンクスはまだ生きている(まだ1回しか試していないが)。その他。とりあえず、無力な1サポに出来ることは、サポーター作成のフリーペーパーに文章を書くことと、当日試合に行くことくらいか。今は雨だ。こりゃあ明日の動員も期待出来ないぞ。それにしても今年のホームゲームはすべて雨に祟られている。やることなすこと上手くいかない。これで、ゆるキャラ金沢に惨殺された日には、当日の松本市内の自殺者数が跳ね上がることは間違いあるまい。

 

それでも、俺達は勝つんだ!

 

夢見る三十路男の戯言だと、笑ってくれても構わない。松本山雅は、勝者を任じる。

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«偶像が人間になった日。